wetchのブログ

他人に見られることを想定していない書き散らかし独習ノート.物理学とかVBAとか.

誘電体境界で屈折する電場と電束密度のイラスト

はじめに

誘電率\varepsilon_1, \varepsilon_2の2つの誘電体の境界面における電場の屈折について考える.
誘電体1側から電場E_1,電束D_1=\varepsilon_1E_1が入射角\theta_1で入ってきたとき,誘電体2側に出ていくE_2,D_2, \theta_2を求めたい.
条件は

  • 電場は接線連続:E_1\sin\theta_1=E_2\sin\theta_2
  • 電束は法線連続:D_1\cos\theta_1=D_2\cos\theta_2
  • 誘電体2側での構成則:D_2=\varepsilon_2E_2

なので,解くと

\begin{align}E_2&=E_1\sqrt{\left(\frac{\varepsilon_1}{\varepsilon_2}\cos\theta_1\right)^2+\sin^2\theta_1},\\D_2&=D_1\sqrt{\cos^2\theta_1+\left(\frac{\varepsilon_2}{\varepsilon_1}\sin\theta_1\right)^2},\\\tan\theta_2&=\frac{\varepsilon_2}{\varepsilon_1}\tan\theta_1.\end{align}

たとえば\varepsilon_2/\varepsilon_1=4, \theta_1=\arctan(1/2)\simeq26.5^\circとすると,切りがよくE_2=E_1/2, D_2=2D_1, \theta_2=\arctan(2)\simeq63.4^\circとなる.図にするとこんな感じ:
中央の黒線が誘電体の境界面.左側からE_1,D_1が入射角\theta_1で入ってきて,右側にE_2,D_2, \theta_2で出ていく.

問題意識

代数的に計算すれば確かにこの結果になるし,上の公式はガウスの式とかファラデーの式という解析的な式から証明できる.それはそうなんだが,「電場Eは接線連続,電束Dは法線連続.逆に言うと電場の法線成分や電束の接線成分は不連続になりえる」などいう呪文は考えると訳が分からなくなってしまい覚えられない.何故Eは小さくなってDは大きくなるのか.もうちょっと何と言うか,幾何的に理解できないものか.

イラストレーションの検討

要はEDも矢印で表すのが悪い.

電場

電場はEベクトルに垂直な等電位線で表す.*1 Eベクトルの長さと等電位線の間隔は反比例する.

電場は等電位線
境界面において等電位線がつながっているところに注意.この図で等電位線の間隔の比(誘電体2側の間隔/誘電体1側の間隔)を幾何学的に計算すると,最初に言った
E_2/E_1=\sqrt{\left(\frac{\varepsilon_1}{\varepsilon_2}\cos\theta_1\right)^2+\sin^2\theta_1}
逆数に等しくなる.
また下図で紫で示すように境界面を含む領域をとると,紫領域の境界を横切る等電位線の数(符号付き)の総和が 0 になる.これが「電場は接線連続」であることと対応している.*2*3
ファラデー則\operatorname{rot}E=0

電束

電束はDベクトルに平行な細管で表す.*4 Dベクトルの長さと細管の密さ(文字通り電束の密度)は比例する.

電束は細管.
この細管も境界面でつながっていることに注意.この図で細管の間隔の比(誘電体2側の間隔/誘電体1側の間隔)を幾何学的に計算すると,最初に言った
D_2/D_1=\sqrt{\cos^2\theta_1+\left(\frac{\varepsilon_2}{\varepsilon_1}\sin\theta_1\right)^2}
等しくなる.
また境界面を含む領域をとってそこに出入りする細管の数を合計すると 0 になる.これが「電束は法線連続」であることと対応している.*5*6
ガウス\operatorname{div}D=0

おわりに

最後に図を重ね書きしておく.

誘電体境界で屈折する電場と電束密度のイラスト.\varepsilon_2>\varepsilon_1の場合.
これを見てると,マクスウェル方程式などが割と直観的にイラストレートできていると感じる.

  • 誘電率\varepsilonが変化するとき,Eベクトルの法線成分やDベクトルの接線成分は不連続なので場としても不連続なイメージを持ちそうだが,実際はEを表す等電位線やDを表す細管は境界面で折れ曲がるだけで本数は変わらない.境界面で新たに生じたり消滅したりはせず,つながっている.これは\operatorname{rot}E=0,\ \operatorname{div}D=0からの帰結.
  • \varepsilonの大きい物質の中では相対的にEは間隔が広くなり,Dは密になる*7.これはD=\varepsilon Eからの帰結.

ただ,あと\varepsilon_2/\varepsilon_1幾何学的に表す方法,\theta_2幾何学的に求める方法があればいいんだけど,うまい手が見つからないなあ.

Eを磁場Hに,Dを磁束Bに,そして\varepsilon透磁率\muに置き換えれば(B=\mu H),磁性体境界における磁場の屈折について同じイメージで考えることができる.

*1:E微分形式で言う1形式であることに対応.

*2:紫領域は長方形である必要はない.また,この図では全部カウントしたが,紫領域を薄く(縦長に)すれば上下境界を横切る等電位線はないものとしてよく,このとき左右境界を横切る等電位線の数がEベクトルの接線成分と同じになる.

*3:3次元的に考えると本当は等電位線ではなく等電位面だし,横切る箇所は点ではなく閉曲線になるのだが,まあイメージだしこれでいいや.

*4:Eと同様にDが2形式であることに対応.

*5:電場Eのときと同様,紫領域を薄く(縦長に)すれば上下境界を横切る細管はないものとしてよく,このとき左右境界を横切る細管の数がDベクトルの法線成分と同じになる.

*6:境界面に電荷がある場合は,紫領域の内部から電束が生じているため境界面での細管の合計は 0 にならず(\operatorname{div}D=\rho),したがって法線連続とならない.

*7:少しの電位勾配で多くの電束が通る,あるいはたくさん電束を通しても少ししか電位が変わらないという感じか? \varepsilonは大きいほどより導体に近く,小さいほどより絶縁体に近い,というイメージらしい.