wetchのブログ

他人に見られることを想定していない書き散らかし独習ノート.物理学とかVBAとか.

ポートフォリオ理論の勉強中

新NISAも始まったし,こういうこともやっていったほうがいいかもね.

単一のデータのモデリング

実例が何かほしいので,みんな大好きS&P500を例にしよう.基準価額を S(t) とする.


eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | eMAXIS(イーマクシス)

グラフの概形が指数関数っぽいことも考慮しつつ,前日からの変化率

\displaystyle \frac{\mathrm{d}S}{S} := \frac{S(t_{i+1})-S(t_i)}{S(t_i)}
を計算.*1
そして時系列グラフとヒストグラムを書いてみる.

ヒストグラム正規分布っぽくなったのでこれはガウス過程であると近似.\mathrm{d}S は次の平均と分散を持つ正規分布に従うとモデル化する:
\mathrm{d}S \sim N(\mu S \mathrm{d}t, \sigma^2 S^2 \mathrm{d}t).
ここで \mu,\sigma は定数.同じことだが
\begin{align}\mathcal{E}\{\mathrm{d}S\} &= \mu S \mathrm{d}t, \\ \mathcal{E}\{(\mathrm{d}S - \mu S \mathrm{d}t)^2 \} &= \sigma^2 S^2 \mathrm{d}t.\end{align} \tag{1}

\mathrm{d}t の入り方が唐突かつ不可解だが,これを幾何ブラウン過程という,らしい.

エクセルで実際に計算すると(ただし時間 t は年を単位とする),

\begin{align} \mu_\text{S&P} &= \operatorname{AVERAGE}\left(\frac{S_{i+1}-S_i}{S_i(t_{i+1}-t_i)}\right) = 0.28898616 /年,\\ \sigma_\text{S&P}^2 &= \operatorname{COVARIANCE.S}\left(\left(\frac{S_{i+1}-S_i}{S_i\sqrt{t_{i+1}-t_i}}\right)^2\right) = 0.06202991 /年.\end{align}

2つのデータの相関

もうひとつ,先進国債権の基準価額も引っ張ってきた.


eMAXIS Slim 先進国債券インデックス | eMAXIS(イーマクシス)

こちらも同様にモデル化してパラメータを計算すると,
\begin{align}\mu_\text{bond} &= 0.104085837 /年,\\ \sigma_\text{bond}^2 &= 0.006067714 /年.\end{align}

複数の確率変数がある場合に忘れちゃいけないのはその相関,または共分散だ.S&P500と先進国債権の2つのデータから共分散を計算する.

\begin{align}\sigma_\text{S&P,bond} &= \operatorname{COVARIANCE.S}\left(\frac{S^\text{S&P}_{i+1}-S^\text{S&P}_i}{S^\text{S&P}_i\sqrt{t_{i+1}-t_i}} \cdot \frac{S^\text{bond}_{i+1}-S^\text{bond}_i}{S^\text{bond}_i\sqrt{t_{i+1}-t_i}}\right) \\ &= 0.007219366 /年.\end{align}
相関係数 0.372122504)

ポートフォリオ

この2つの投信を組み合わせてポートフォリオ P を作ったとき,2つまとめての \mu_P\sigma_P はどう計算できるだろうか.
S&Pを y_\text{S&P} 円,債権を y_\text{bond} 円買ったとしよう.口数はそれぞれの基準価額 S で割って y/S で求められるから,

\displaystyle P = y_\text{S&P} +y_\text{bond} = \frac{y_\text{S&P}}{S_\text{S&P}}S_\text{S&P} + \frac{y_\text{bond}}{S_\text{bond}}S_\text{bond}.

その微分
\displaystyle \mathrm{d}P = \frac{y_\text{S&P}}{S_\text{S&P}}\mathrm{d}S_\text{S&P} + \frac{y_\text{bond}}{S_\text{bond}}\mathrm{d}S_\text{bond}.

式(1)よりまず平均は
\mathcal{E}\{\mathrm{d}P\} = (y_\text{S&P} \mu_\text{S&P} +y_\text{bond}\mu_\text{bond} ) \mathrm{d}t,
で,分散は行列で表すと*2
\begin{align}&\mathcal{E}\{(\mathrm{d}P-\mathcal{E}\{\mathrm{d}P\})^2\} \\ &= \begin{pmatrix}y_\text{S&P} & y_\text{bond}\end{pmatrix} \begin{pmatrix}\sigma_\text{S&P}^2 & \sigma_\text{S&P,bond} \\ \sigma_\text{S&P,bond} & \sigma_\text{bond}^2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}y_\text{S&P} \\ y_\text{bond}\end{pmatrix} \mathrm{d}t. \end{align}

式(1)に似た形に整えると,
\begin{align}\mathrm{d}P &\sim N(\mu_P P \mathrm{d}t, \sigma_P^2 P^2 \mathrm{d}t), \\
\mu_P &= \mu_\text{S&P} \frac{y_\text{S&P}}{P} + \mu_\text{bond}\frac{y_\text{bond}}{P},\\
\sigma_P^2 &= \begin{pmatrix}\frac{y_\text{S&P}}{P} & \frac{y_\text{bond}}{P} \end{pmatrix} \begin{pmatrix}\sigma_\text{S&P}^2 & \sigma_\text{S&P,bond} \\ \sigma_\text{S&P,bond} & \sigma_\text{bond}^2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}y_\text{S&P}/P \\ y_\text{bond}/P \end{pmatrix}. \end{align}

ただし,y_\text{S&P}/P, y_\text{bond}/Pポートフォリオ P 内のS&P, 債権それぞれの割合(金額比)であって定数ではないことに注意.

\sigma_P^2y_\text{S&P}, y_\text{S&P} の2次式であるため,自明ではないことに,共分散行列の係数によっては(とくに相関が負の場合),\sigma_P < \sigma_\text{S&P}, \sigma_\text{bond} にもなり得る.

*1:ここで条件反射的に左辺を \ln S に置き換えてはいけない.伊藤の公式によるとそうはならない.

*2:行列にすることで,3変数以上になったときも簡単に拡張できる.