wetchのブログ

他人に見られることを想定していない書き散らかし独習ノート.物理学とかVBAとか.

水の入った容器の重心位置

もともと何で見たのかは忘れたけど,こういう遊びがあるらしい.
ペットボトルの起き上がり小法師(ヒット・ペット)の科学 │科学実験データ│科学実験データベース│公益財団法人日本科学協会

これを成功させるための一条件として,重心をできるだけ下にすればいいんじゃね? というのは割とすぐ気が付く話なのだけど,実際に重心が最も下に来るような水の量はいくらか?を計算してみたくなったのが今回のお話.
(中高生の自由研究かもしれないけどやってる人もいたようだ.http://www.kariya-h.aichi-c.ed.jp/school/ssh/ssh5/H270617-1.pdf

とりあえず容器はほぼ円柱形としよう.底面積S_\mathrm{c},質量m_\mathrm{c},底面から重心までの高さh_\mathrm{c}とおく(cはcontainerの意).
中に入れる水は密度\rho,そこから水面までの高さxとする.つまり水部分のみの重心の高さはx/2
すると水+容器系の重心の高さy
 \displaystyle y(x)=\frac{h_\mathrm{c}m_\mathrm{c}+\frac{\rho S_\mathrm{c}}{2}x^2}{m_\mathrm{c}+\rho S_\mathrm{c}x}.
xを変数としたときのyの最小値を求めたいわけだが,見た目がちょっとゴチャっとしそうなので無次元化する.

 \displaystyle x\to\xi\equiv\frac{x}{2h_\mathrm{c}},\quad y\to\eta\equiv\frac{y}{2h_\mathrm{c}},\quad  \mu\equiv\frac{2\rho S_\mathrm{c}h_\mathrm{c}}{m_\mathrm{c}}.
すると,
 \displaystyle\eta(\xi)=\frac{1}{2}\frac{1+\mu\xi^2}{1+\mu\xi}
となる.グラフにするとこんな感じ.

f:id:wetch:20181118181958p:plain
μ=0.1, 1, 10

ここから以下のことが分かる.

  • 極小値は\displaystyle \xi=\frac{\sqrt{1+\mu}-1}{\mu}のときに\displaystyle \eta=\frac{\sqrt{1+\mu}-1}{\mu}.有次元形に戻すと\displaystyle x=y=\frac{m_\mathrm{c}}{\rho S_\mathrm{c}}\left(\sqrt{1+\frac{2\rho S_\mathrm{c}h_\mathrm{c}}{m_\mathrm{c}}}-1\right)
  • 水+容器系の重心高さyが最も低くなるのは、水面高さxyが一致したとき.それ以上水を入れたら重心より上に質量を乗せることになるのだから言われてみれば当然.
  • 水が入っていないときの重心は\muによらず x=0\Rightarrow \xi=0\Rightarrow \eta=\mu/2\Rightarrow y=h_\mathrm{c}.つまり容器の重心と一致.当然.
  • \xi=1のとき,\eta\muによらず\eta=1/2.有次元形で言うとx=2h_\mathrm{c}のとき,yは必ずy=h.水部分のみの重心位置がhなら水+容器系の重心もhなのでこれも言われてみれば当然.
  • \etaの表式を変形すると

  \displaystyle \eta(\xi)=\frac{1}{2}\left(\frac{1+\mu}{\mu(1+\mu\xi)}-\frac{1}{\mu}+\xi\right)
 だから,
  \displaystyle x\to\infty\Rightarrow \xi\to\infty\Rightarrow \eta=\frac{1}{2}\left(-\frac{1}{\mu}+\xi\right)\Rightarrow y=\frac{1}{2}\left(x-\frac{m_\mathrm{c}}{\rho S_\mathrm{c}}\right).
 すなわち,水をたくさん入れたときの重心位置は水部分のみの重心より
 m_\mathrm{c}/(\rho S_\mathrm{c})だけ下にずれる.

定性的にはところどころ当然の結果もあるけど、思ってたよりは自明でない形になったね.