wetchのブログ

他人に見られることを想定していない書き散らかし独習ノート.物理学とかVBAとか.

理想気体の熱力学関数

ルジャンドル変換の練習問題として理想気体の熱力学関数の具体形がほしくなったので,教科書見ながらあらすじを書いておく.
導出が異様に長いのだけどこの方法しかないの?

参考文献の式番号も併記しておく.

田崎晴明熱力学―現代的な視点から (新物理学シリーズ),2000,培風館

(初版なので訂正がその後出ているのだけど全部チェックはしてないので注意.熱力学 — 現代的な視点から:訂正

理想気体の定義
  • (3.35) pV=NRT.
  • (4.29) 内部エネルギUが体積VによらずU(T,V,N)=U(T',V,N)となること
  • (4.32) モル比熱がc_V:=\frac{1}{N}\frac{\partial U(T,V,N)}{\partial T}=cRで書けること.cは定数で単原子分子ならc=3/2とかだけどそれは今は置いておく.比熱比\gammaで書くとc=1/(\gamma-1).
ヘルムホルツの自由エネルギF

状態を温度Tとその他の示量変数Xを用いて(T,X)と表現する.
等温過程で状態が(T,X_1)\to(T,X_2)となるとき外界に行う仕事の最大値は
 (3.27) W_\mathrm{max}( (T,X_1)\to (T,X_2))=F(T,X_1)-F(T,X_2).
また,圧力pの定義として
 (3.30) W_\mathrm{max}( (T,V,N)\to(T,V+\Delta V,N))=p\Delta V.
以上の2式を使うと
 (3.31) \begin{align} p(T,V,N)&=\frac{W_\mathrm{max}( (T,V,N)\to(T,V+\Delta V,N))}{\Delta V} \\
&=\frac{\partial F(T,V,N)}{\partial V}. \end{align}
よって、基準点をV^*(T,N)と書いて,状態方程式(3.35)も使えば
 (3.36) \begin{align}F[T,V,N]&=-\int_{V^*(T,N)}^V p(T,V',N) dV' =-\int_{V^*(T,N)}^V \frac{NRT}{V'} dV' \\
&=-NRT\ln{\frac{V}{V^*(T,N)}}. \end{align}
注:角括弧は「完全な熱力学関数」であることを表す.

内部エネルギUの表式

(4.29)より内部エネルギUVによらないので,Nを固定すればUTのみの関数である.(4.32)より,U_0を内部エネルギの基準点としてこう書ける:
 (4.33) U(T,V,N)=Nc_VT+U_0=cNRT+U_0.

ポアソンの関係式

系が外界にする仕事W理想気体の状態方程式(3.35)を考慮すれば
 (4.36) W:=p\Delta V=\frac{NRT}{V}\Delta V.
一方,Uの表式(4.33)を考慮すると断熱準静過程のときのエネルギ保存則は
 (4.37) \begin{align}W&=U(T,V,N)-U(T+\Delta T,V+\Delta V,N) \\ &=-cNR\Delta T. \end{align}
(4.36),(4.37)を等置して
 (4.39) \frac{\Delta V}{V}=-c\frac{\Delta T}{T},
 (4.41) \therefore T^c V=\text{const.}
基準状態をT_0,V_0とおけば[tex] T^c V= T_0^c V_0]だから
 (6.29) V=\left(\frac{T}{T_0}\right)^{-c} V_0.

エントロピ

ヘルムホルツの自由エネルギ(3.36)とUの表式(4.33)をエントロピの定義に代入すると,
 (6.28) \begin{align}S(T,V,N)&:=\frac{U-F}{T}\\
&=cNR+\frac{U_0}{T}+NR\ln{\frac{V}{V^*(T,N)}}. \end{align}

次にV^*(T,N)を決める.基準状態でS_0=cNRとすれば,基準状態から断熱準静過程で移れる任意の状態についてS=S_0=cNRとできるから
 0=S-S_0=\frac{U_0}{T}+NR\ln\frac{V}{V^*(T,N)}.
これとポアソンの関係式(6.29)より
 (6.31) V^*(T,N)=V\exp\left(\frac{U_0}{NRT}\right)=V_0\left(\frac{T}{T_0}\right)^{-c} \exp\left(\frac{U_0}{NRT}\right).

(6.31)を(6.28)に代入すれば
 (6.32) S(T,V,N)=cNR+NR\ln\left\{\left(\frac{T}{T_0}\right)^c \frac{V}{V_0}\right\}.

自由エネルギ再び

(6.31)を(3.36)に代入すれば
 (7.9) F[T,V,N]=-NRT\ln\left\{\left(\frac{T}{T_0}\right)^c \frac{V}{V_0}\right\}+U_0.
またギブスの自由エネルギは,状態方程式(3.35)も考慮すると
 (8.12) \begin{align}G[T,P,N]&:=F(T,V(T,p,N),N)+pV(T,p,N)\\
&=NRT+NRT\ln\left\{\left(\frac{T}{T_0}\right)^{-(c+1)} \frac{P}{P_0}\right\}. \end{align}

浅井朝雄,熱力学の数理日本評論社

理想気体の状態方程式
 (5.1) pV=NRT.

状態X_1からX_2へ断熱過程で移るとき,力学的な仕事W
 (5.17) W=Nc_V(T_1-T_2).
これが内部エネルギの差によって表されるのだから,内部エネルギはU_0を定数として,状態方程式(5.1)を使って
 (7.17) U(p,V,T)=Nc_VT+U_0=\frac{c_V}{R}pV+U_0.
Q
 (7.7) \begin{align}Q&=dU+pdV\\&=\frac{\partial U}{\partial p}dp +\frac{\partial U}{\partial V}dV + pdV \end{align}
で,(7.17)の微分を用いれば
 (7.18) Q=\frac{c_V}{R}(Vdp+pdV)+pdV.
さらに状態方程式(5.1)とその微分
 (7.27) NRdT=pdV+Vdp
を用いて(7.18)からpを消去すると
 Q=T\left(\frac{Nc_V}{T}dT + \frac{NR}{V}dV\right).
ここで
 dS:=\frac{Nc_V}{T}dT+\frac{NR}{V}dV
とすれば
 (7.30) Q=TdS
と書ける.すなわちs_0を定数として
 (7.29) S(p,V,T)=Nc_V\ln{\frac{T}{T_0}} + NR\ln{\frac{V}{V_0}} + Ns_0.