wetchのブログ

他人に見られることを想定していない書き散らかし独習ノート.物理学とかVBAとか.

電磁気学の単位系

なんか2度目のマイブームが来た.

前回は既存の単位系について整理していたけど,最も「望ましい」単位系とは何だろう.
もちろん「望ましい」は主観であることは分かったうえでの話.

そもそも現状の何が不満なのか? 自分の頭の中を整理してみる.

  • 自然単位系:一番理論的に突き詰めるとこれに落ち着く.でもここでは電磁気学に話を限定しているのでプランク定数とか万有引力定数とかは考えないことにする.よって棄却.
  • 3元単位系:質量\mathsf{M},長さ\mathsf{L},時間\mathsf{T}の3次元であり,次元が少ないという意味でシンプル.でも電磁気には電荷という,この分野特有の保存する物理量がある訳で,こいつには新しい次元を与えてやりたいと思う.よって棄却.
  • SI (MKSA) 単位系:電荷の代わりに電流の次元\mathsf{I}を使ってるのは別にいいけど,E, B, D, Hの単位が複雑なのが気に入らない.よって棄却.
  • そもそも質量のない電磁場を表す量に質量の次元\mathsf{M}が入っているのが気に入らない.このために3元系ではいろんな単位に力の0.5乗という,初学者を混乱させる因子が入ってくる.既存の単位系は全部棄却だ.質量ではなくてエネルギと考えれば入っててもいいのか?いや,敢えてダメとしてみよう.
  • 時間と空間を区別する非相対論の範囲で考えるなら,電場と磁場も区別していいはず.

こうしてみると自分が望ましいと考えてるのはこういう性質を持つ単位系のようだ:

  • 次元は質量\mathsf{M}(またはエネルギ\mathsf{E}でもよい),長さ\mathsf{L},時間\mathsf{T},および電流\mathsf{I}(または電荷\mathsf{C})の4元系.あるいは磁場に関する次元をもう1個加えて5元系.
  • E,B,D,Hの次元がそこそこきれいにまとまっていること.同じである必要はないけど.
  • E,B,D,Hは質量の次元\mathsf{M}を含まないこと.

また,以下のエクスキューズをしておく.

  • 歴史的な経緯や定義は無視する.完成された理論をもう一度振り返って合理的に組み立て直したいということ.
  • また,既存の単位系,特にSI単位系からの換算の容易さなどは考えないことにする.

案1

そんなことを考えつつ,電磁気量の単位系 - Wikipedia を見てみる.

まずは\gamma.これは 1 またはcになるのだけど,たとえば
  \displaystyle {\boldsymbol {E}}=-\operatorname {grad} \phi -\frac{1}{\gamma } \frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}
のように時間微分の前につくことが多いので\gamma=cのほうがいいだろう.このことと
  \displaystyle c=\frac{\gamma}{\sqrt{\epsilon_0\mu_0}}
から,\epsilon_0 \mu_0の積は無次元ということになる.また,[\gamma]=\mathsf{L T}^{-1}と既存の次元で表されたので4元系となる.

今の式で出てきた誘電率\epsilon_0透磁率\mu_0は少し対称な感じで出てくるので,この2つは同じ次元のほうがいい気がする.そうするとどちらも無次元ということになる.

あと質量の次元\mathsf{M}についてだが,どうしてもこれを考えなきゃならないのはローレンツ
 \boldsymbol{f}=q(\boldsymbol{E}+\frac{1}{\gamma}\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B})
だけだ.これがあるからE\mathsf{M}を含み,上述のように各単位に力の0.5乗が入ってくるハメになっている.ちょっと変わったことをするけど,\mathsf{M}を含む新しい比例係数\kappaを考えてこいつに\mathsf{M}を押し付けよう.
 \boldsymbol{f}=\kappa q(\boldsymbol{E}+\frac{1}{\gamma}\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B})

以上をまとめて計算した結果を示す.エネルギ\mathsf{E}電荷\mathsf{C}を使って表す.
 [E],[B],[H],[D]=\mathsf{L}^{-2}\mathsf{C}
 [\kappa]=\mathsf{E L}\mathsf{C}^{-2}
電磁場からエネルギの次元が消えたことにより,マクスウェル方程式だけ見た場合\mathsf{L,T,C}の3元系になった.
\mathsf{E}, \mathsf{C}の両方を併せ持つ量は\kappaだけなので,ローレンツ力など力学とのつながりを考えるときのみ4元系で,必ず\kappaが現れることになるから分かりやすいんじゃなかろうか.

案2

案1で\gamma=cとした代わりに\gamma=1で考えてみる.すると\epsilon_0\mu_0=1/c^2になる.
ここでどちらか片方を 1 にすると電磁単位系とか静電単位系になるのだけど,ここでは対称的に\epsilon_0=\mu_0=1/cとする.
また,\kappaは案1と同様に考える.
すると,
 [E], [H]=\mathsf{L}^{-1}\mathsf{T}^{-1}\mathsf{C}
 [D], [B]=\mathsf{L}^{-2}\mathsf{C}
 [\kappa]=\mathsf{E T}\mathsf{C}^{-2}
となる.
こいつの特長は,

  • E,Hは1形式であり線積分の対象になるので長さについては\mathsf{L}^{-1}である
  • D,Bは2形式であり面積分の対象になるので長さについては\mathsf{L}^{-2}である

という対応関係が現れてることだ.
と言ってもべつにE-H対応と言いたいわけではない(というかこの辺の議論はまだ理解していない).

案3

電気的な次元と磁気的な次元を分けて5元系にしてみたらどうなるのだろう.
Wikipediaには「\gammaは電気的な量と磁気的な量の結びつけ方を決める係数である」と書いてあるし,おそらくこれだけが電気と磁気両方の次元を持つ量になるのだろう.それでE,Dは電気的,B,Hは磁気的な次元のみを含むことになるだろう.
さらにポテンシャルまで考えると\phiは電気的,Aは磁気的なのだろうか.スカラーとベクトルで対称性がなくなってるけどどうなのだろう.
あと不安なのは,変数を増やし自由度を増やしたことにより一意に決まらなくなっているかもしれないことだ。

とりあえず考えたところまでまとめてみよう.
上で言った\kappaを使い,電磁場に関する量にはエネルギの次元が出ないスタイルで行く.

  • [E]=\mathsf{L}^{-1} \mathsf{T}^{-1} \mathsf{C}
  • [B]=\mathsf{L}^{-2}   \mathsf{C} [\gamma]
  • [D]=\mathsf{L}^{-2}   \mathsf{C}
  • [H]=\mathsf{L}^{-1} \mathsf{T}^{-1} \mathsf{C} [\gamma]^{-1}

さらにポテンシャル\phi, Aについては

  • [\phi]=\mathsf{T}^{-1} \mathsf{C}
  • [A]=\mathsf{L}^{-1} \mathsf{C} [\gamma]

電荷・電流密度については

  • [\rho]=\mathsf{T}^{-3} \mathsf{C}
  • [j]=\mathsf{L}^{-2} \mathsf{T}^{-1} \mathsf{C}

誘電率透磁率

  • [\epsilon]=\mathsf{L}^{-1} \mathsf{T}
  • [\mu]=\mathsf{L}^{-1} \mathsf{T} [\gamma]^2

最後に定数

  • [\gamma]=[\gamma]
  • [\kappa]=\mathsf{E} \mathsf{T} \mathsf{C}^{-2}

これの特長は各次元について整理すると,

  • \mathsf{C}の次元は電磁場,ポテンシャル,電荷電流密度に全部1乗でついている.電磁場にかかわる量であるというフラグみたいなものか.
  • [\gamma]の次元はA, B, Hについている.磁気にかかわる量であるというフラグと読める.Hだけ -1乗になってしまっているが仕方ない.
  • \mathsf{L}の次元はそれぞれの量を非相対論的に空間3次元の微分形式とかテンソルで見た時の次数に一致する.つまり\phiは0形式,A, E, Hは1形式,B,D,jは2形式,\rhoは3形式で表現されるからそれぞれ\mathsf{L}^0, \mathsf{L}^{-1}, \mathsf{L}^{-2}, \mathsf{L}^{-3}を含んでいる.
  • \mathsf{T}の次元は,\mathsf{L}の次数との和が,それぞれの量を相対論的に4次元の微分形式・テンソルで見た時の次数に一致する.つまりポテンシャル(\phi,A)で1形式,電磁場のテンソル (E, B)とか(D,H)で2形式,(\rho, j)で3形式で表現されるということに対応している.

となって,次元が物理的な意味と整合しているという利点があると思う.

ちなみに相対論的に考えるならもちろん電場と磁場の区別はなくなるから,[\gamma]\mathsf{T}の次元をなくして\mathsf{E},\mathsf{L},\mathsf{C}の3元系とするのがよいのだろうと思う.この場合も\kappaを使うと定数\gamma,\epsilon,\muが全部無次元にできるのが気持ちいい.

ここまで考えたところで,5元系について考えている人を見つけた:
https://yamakatsusan.web.fc2.com/maxwell.pdf