前回の続き
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状態方程式を具体的に与えてみる.
参考文献
- 和田裕文,志賀正幸,一次磁気相転移を示す化合物の磁気熱量効果
- 冨田博之,エントロピー的な力 — ゴム弾性と気体の圧力
- 飛田和男,「熱力学」レジュメ
- 田中文彦,高分子基礎物理化学(未完)第 2 章ゴム弾性
- 小山敏幸,2章 熱力学の基礎
- 菊川芳夫,まとめ 6. 応用
- 熱力学的状態方程式 - Wikipedia
- 風間洋一,第 6章 平衡条件、熱力学関数、及びより一般的な系への応用
- 戸田昭彦,熱力学(参考18) 弾性の熱力学的性質
- 誘電体の熱力学 – 物理とはずがたり
- 一様外電磁場中の熱力学 – 物理とはずがたり
パターンA
構成方程式 の偏微分の符号が
のパターン.
理想気体
まずは理想気体に適用して検算していこう.に書き換える(にマイナス付いているので符号がややこしい).示強変数が圧力なのでこれを圧力熱量効果という.*1
この系について前回の結果に基づいて偏微分を計算し,にも注意して符号を調べていく.
- 等温過程
等温でを大きくすると(吸熱),を強くすると(放熱). - 断熱過程
断熱でを大きくすると(降温),を強くすると(昇温). - との関係
定積でも定圧でも,とには正の相関. - ポアソンの法則:以上の式を適当に組み合わせると
が出てきて,として積分すればポアソンの法則が導かれる.
検算は大丈夫そうだ.TS線図も作ってみた.
これを使って逆カルノーのような冷凍サイクルをつくるには,
- 断熱圧縮() *2
- 等温放熱()
- 断熱膨張()
- 等温吸熱()
をすればよい.
完全溶液
次に完全溶液を考えてみた*3.ここでは 物質量化学ポテンシャル に対応させる.あとで物質量の比に を使うが混同しないように.
系に複数の物質が存在して,物質について示量変数の物質量と示強変数の化学ポテンシャルを考える.この節での偏微分では,以外の物質については変化させないものとする.
- 状態方程式
なのでであることに注意する.偏微分の符号は - 比熱は,状態方程式がについて1次なのでになる.
- 等温過程
等温でを増やしたりを強めると(吸熱). - 断熱過程
断熱でを増やしたりを強めると(降温). - の関係
定または定で,の間には正の相関.
TS線図はこんな感じか.
冷凍サイクルとしては
- 断熱昇温()
- 等温放熱()
- 断熱降温()
- 等温吸熱()
この現象には熱量効果としての名称はついていないようだ.実用的には吸収式冷凍機が近いか?
表面張力
これはパターンAの亜種的な位置づけになりそう.
面積表面張力とする.
- 状態方程式は で,Wikipediaによると
他2つは かな. - 比熱は定比熱でいいのか分からないが,とりあえず温度の関数として
- 等温過程
等温で面積を大きくすると(吸熱).表面張力は変化できない. - 断熱過程
断熱でを大きくしたりを強めると(降温). - の関係
定面積ではの間には正の相関.定では温度が変化できない.
TS線図は以下( は面積 に, は表面張力 に読み替えて).の線が水平になっているところが普通のパターンAとの違い.
この現象は名付けるなら表面熱量効果とでも言えるのだろうが,実用例はなさそう.
冷凍サイクルとしては
- 断熱昇温()
- 等温放熱()
- 断熱降温()
- 等温吸熱()
パターンB
構成方程式 の偏微分の符号が
のパターン.
ゴム
<cf.> ゴフ・ジュール効果
- 状態方程式:理想気体を少し一般化して,温度の1次式という条件だけにしてみる:
ただしは伸び.(張力を与えると伸びであり,を強めるとは伸びる). - 比熱:状態方程式がに関して1次のときとなるのではによらずのみの関数になる.つまり
- 等温過程
等温でを伸ばしたりを強くしたりすると(放熱). - 断熱過程
断熱でを伸ばしたりを強くしたりすると(昇温). - の関係
定長さでも定張力でも,の間には正の相関.
これは弾性熱量効果と呼ばれている.
バネ
- 状態方程式:ゴムとは逆に,の1次式
とする.とする. - 比熱
ここはこれ以上簡単にできない. - 等温過程
等温でを伸ばしたりを強めたりすると(放熱). - 断熱過程
断熱でもを伸ばしたりを強めたりすると(昇温). - との関係
定長さでも定張力でも,とには正の相関.
これも弾性熱量効果と呼ばれていいはずだが,なんか違うようだ.
磁性体
を磁化,を磁場とし,に書き換える.
- 状態方程式はがにもにも1次で依存するものになる:
ここではキュリー定数. - 比熱は上述の理想気体やゴムと同じ理由によりが言える.
- 等温過程
等温でを強めると(放熱). - 断熱過程
断熱でを強めると(昇温). - の関係
定または定で,の間には正の相関.
これは磁気熱量効果とか,冷却性能に注目して断熱消磁と呼ばれている.
パターンBまとめ
パターンBのTS線図を書いてみるとこんな感じになる:このパターンの定性的特徴は
- の傾きは正だが緩く, の傾きの方が正できつい.これはパターンAと同じ.
- 概ね は昇温(), は降温()と対応する.
- 概ね は放熱(), は吸熱()と対応する.
冷凍サイクルとしてはパターンBで共通して
- 断熱引張()
- 等温放熱()
- 断熱圧縮()
- 等温吸熱()
パターンC
構成方程式 の偏微分の符号が
のパターン.具体例が見つからないが,TS線図の定性的特徴は
- の傾きは正でこっちの方が緩い. の傾きはきつく,また正か負か決まらない(構成方程式の具体形による).*4
- 概ね は吸熱(), は放熱()と対応する.
- 概ね は昇温(), は降温()と対応する.
パターンD
構成方程式 の偏微分の符号が
のパターン.
これも具体例が見つからない.TS線図の定性的特徴は
- の傾きは正でこっちの方が緩い. の傾きはきつく,また正か負か決まらない(構成方程式の具体形による).
- 概ね は放熱(), は吸熱()と対応する.
- 概ね は降温(), は昇温()と対応する.