参考文献
- バッキンガムのΠ定理(1914):独立な無次元数の数は変数の数から次元行列の階数を引いたものに等しい.
- レイリー・Riabouchinsky論争:温度の次元を とするか,エネルギと同じ とするかで無次元数の数が変わってしまい,曖昧だと考えられて揉めた.
- ブリッジマンBridgmanの処方:加速度のない流れでは,質量 長さ 時間 に加えて力 を独立次元と見なして次元解析できる.それをすれば無次元数の数が減り,より詳細な関係式が得られる.
例1:液膜
液膜厚さ ,単位幅あたり体積流量 ,密度 ,粘性 ,重力 の5変数
(1) 5変数 - 3次元 = 2無次元量の場合
次元は の3つ.次元行列は
無次元数は5-3=2つ得られる.よく使われるのは
で,という関係式が得られると予測されるが,の形自体は分からない.
(2) 5変数 - 4次元 = 1無次元量の場合
(力 の代わりに)圧力 を加えて の4つとすると,5変数4次元なので1無次元量になる.
を使って重力 と粘性 の次元を書き変える.
重力の次元は .
粘性については場合分けが発生.なんと流れが層流か乱流かで次元が変わる.
- 層流の場合,ニュートンの法則 から となる.
- 乱流の場合,1/7乗則を使う(境界層 - Wikipediaを参照).
より,
したがって次元行列は層流,乱流それぞれについて
したがってこれらの5変数を組み合わせて無次元量を1つ作れば,層流,乱流それぞれについて
という関係式が成り立つことが分かる.
実はこの例においては,と の橋渡しをする換算係数 が存在するので6変数4次元で2つ目の無次元量が存在するのだが,定常流れであり加速度がなく慣性力と他の力との間に力の変換が生じないので の値に現象が左右されないので消えている.
ちなみに2つ目の無次元量はニュートンの運動方程式によるもので,たとえば を使わないことにすれば である.
例2:レイリー・リアボウチンスキー論争
Rayleigh–Riabouchinskys paradox – Wikipedia(スウェーデン語版.式が無次元でない気がする・・・.)
流れの中に置かれた物体と流れとの熱伝達を考える。変数は熱伝達率 ,熱伝導率 ,比熱 ,密度 ,流速 ,代表長さ の6つ(レイノルズ数はそこそこ高いとして粘性の寄与は無視).
(1) 6変数 - 4次元 = 2無次元量の場合
通常は,次元には温度を含めた の4つを使う.この時の次元行列は
で,2つの無次元量
を使った という関係式で整理される.
(1') 7変数 - 4次元 = 3無次元量の場合
実は(1)のケースは,気体定数 が含まれているのに,実現象がそれに左右されないので省略されていると考えることができる.それを次元行列に追加すると
であって,3つ目の無次元数が出てきて となる.この考え方が次の(2)につながる.
(2) 6変数 - 3次元 = 3無次元量の場合(リアボウチンスキーのやり方)
温度を気体定数をかけて というスケールで測る(をそれぞれ にすると言った方がいいかもしれない)とすると,これの次元はエネルギと同じだから となり,の次元が不要になる.この時の次元行列は
だから6変数3次元なので3無次元数ということになり,で整理されることとなる.
ここから次元を1つ追加することで(1)に戻り,より詳細な関係式が得られる.
(3) 6変数で5次元,だけど2無次元量の場合(レイリーのやり方)
(1)にさらにエネルギーの次元 を追加する.この時の次元行列は
で,の2行が独立でないために階数が4なので無次元数は2つ,よって(1)の場合と同じ となる.
(3') 8変数 - 5次元 = 3無次元量の場合
実は(3)のケースは,気体定数 と熱の仕事当量 が省略されている.次元行列に追加すると
これは階数5なので無次元数は3つになり,になる.は最終的に省略されているが,それ以前に無次元数に出てこない.
例3:平板周り境界層流れの抵抗
変数は応力 ,流速 ,密度 ,粘性 ,前縁からの距離 の5つ.
(1) 5変数 - 3次元 = 2無次元量の場合
通常は の3次元.
無次元数は2つで
(2) 6変数 - 4次元 = 2無次元量の場合
を,平板に沿う方向 と垂直な方向 とに分ける.この2つの次元の換算係数を とする.
次元について は変化なし.の分母の次元は影響を受ける.運動方程式より力は ,面積は だから応力は ,さらに層流を仮定すると の次元はニュートンの粘性法則 より .したがって
となる.したがって無次元数は2つで
(2') 5変数 - 4次元 = 1無次元量の場合
実は(2)の場合,は現象に影響しないから,が出ないような無次元数を の組み合わせを考えればいい.一応次元行列は
したがって
(3)失敗例 5変数 - 4次元の場合
単に次元を増やせばいいってものでもないらしい.長さの次元を2つに分ける代わりに圧力の次元 を増やしてみる.換算係数は省略する.だから,
無次元数は1個.
どういうことだ?
極限
結局,次元をできるだけ増やし変数をできるだけ減らせば,無次元数が減り関係式も減り,より詳細な情報を得られる.これを極限まで推し進めると,すべての変数が独立した次元を持つと仮定すればよいことになる.
また逆の方向の極限として,すべての変数に換算係数をかけて同じ次元(例えば無次元)を持つことにしてもよいことになる.
この換算係数を現象を支配する方程式に代入して換算係数が満たすべき方程式を導くと無次元数が得られる,らしい.