対称行列を見ると対角化したくなる病気.
参考文献
- マクスウェルの応力テンソル - Wikipedia
- 場の古典論(原書第6版) (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程), p.91-93, 304-306 *1
やりたいこと
電磁場のイラストレートを企てているが,クーロン力やローレンツ力がうまく書けない.
これらに関係するマクスウェル応力テンソルが対称行列なので微分形式で書けるものでないからというのもあるし.
その辺,よく考えようとしたところ,そもそもマクスウェル応力の構造をよく理解してないことに気付いた.
とりあえず対称行列の構造は対角化して主方向を調べたら分かりそうなんだが,文献とかググったりして調べてもよく分からないので計算してみた.
前提条件と表記上の注意
- 計算を簡略化するために真空中とし,物理次元を適当に規格化して であるかのように扱う.
- ベクトルに対して,そのノルムの表記をのようにいろいろ,気分で使い分けている.
- 計量テンソルの符号は
- 物理量の次元をで表す.たとえば
3次元
結果
∵
Wikipediaによると固有値はらしい.これを信じてみよう.この1個目の固有値は式(1.1)の右辺第3項の係数と同じなので,
となるようなが見つかればそれが固有ベクトルになる.それにはがに直交していればよいが,がそれに適うベクトルだと気づく.
検算しよう.
ここでの反対称性より
2個目,3個目は
∵
1個目の固有ベクトルがなので,他の固有ベクトルはそれに直交,つまりとの線形結合で書ける.よってと置いてを求めればいい.途中計算は省略するけどをかけると
となって,これがに等しいことから,
となる.これをについて解けば,については式(1.3)のように出て,については
となる.
これで終わってもいいのだが,ちょっと見栄えを良くしておこう.まず,のプラスの方を使ってとおくと,2本目の固有ベクトルは
と書ける.ここで の変形は,固有ベクトルはその方向だけが大事で大きさはどうでもいいことから行った.
次に,プラスマイナスで2つあるはかけると -1 になることに注意する:
この関係を利用すると,3本目の固有ベクトルは
と変形できる.■
考察
典型的には,方向にだから引っ張り力がはたらき,それに垂直な方向にだから圧縮力がはたらく.
が鋭角をなしているとき,方向は方向に近く,絵で描くとこんな感じか.
4次元へ拡張
問題の定式化
4次元の電磁テンソルを
とする.電磁エネルギー運動量テンソル
の固有値・固有ベクトルを求めたい.
を用いると
とブロック行列的に表せる(分かりにくいだろうが,と書いたときは4次元テンソル,と書いたときは3次元テンソルを表す).3次元の時の結果と無関係だと悲しいので,そのときの結果も参考に使いつつ調べよう.
結果
1, 2個目は式(1.2)が2つに分裂して,*4
3, 4個目は式(1.3)を直接的に拡張したものとなる.固有値は1, 2個目と同じで,
ここでは式(1.3)と同じく
∵(1個目と2個目について)
固有値・固有ベクトルはを満たすことを再確認しておく.左辺のは反変成分で,右辺のは共変成分で書かれていることに注意.
で,まず式(1.2)に対応するものとして
の形であろうと予想して調べてみる.ここで はこれから決めるべきパラメータ.
3次元の時の結果の式(1.2)より
を利用して左辺を変形すると,
が得られる.これをについて解いて,
ここで爆速ベクトル計算 *5 を使うとルートの中は
なので固有値・固有ベクトルは上式で表される.■
∵(3個目と4個目について)
同様に,式(1.3)の拡張になってると予想してみると,固有ベクトルがに直交しているのが功を奏して計算が楽になり,最終的に上式が出てくる.
ただしの中のにはマイナスが付いているので,式(1.3)のに対しては入れ替わっているのに注意.■
考察
どんな様子になってるのか,正直全然分からん.
になったので,実は2重縮退が2セットあり,4次元時空内に引っ張り力のはたらく平面と,圧縮力のはたらく平面が直交している,という様子になっているようだ.
その他いろいろ考えたこと
E, Hの入れ替え
3次元の時の式(1.2), (1.3)の固有値・固有ベクトルをの関数とみなし,とを入れ替える操作を考えてみると,不変になる:
まあマクスウェル応力がについて対称だから当たり前ではあるのだが.
これは思い付きだが,逆にの詳細な構造(1.1)とはあまり関係なく,固有値固有ベクトルがとの入れ替えに対して不変,という条件だけで式(1.2), (1.3)は半分くらい導けたりして? *7
逆問題
派生する問題として,マクスウェル応力の固有値と固有ベクトルのみが与えられているとき,電場磁場はどこまで復元できるだろうか?
と言っても,がとの入れ替えについて,またと,との入れ替えについて不変だからそこの違いは無視しないといけない.
また,とする.
結果,を任意, として,
が得られた.
自由度が1個残るとは意外だ.ということは試験電荷とかを用いて電磁的な力が測定できても,電場磁場は一意に定められない...ということか.本当か?
*1:ランダウリフシッツ抜粋
- p.70: ある系でなら,ローレンツ変換してまたはとなるような系が見出せる. 逆も言える.
- p.71: と は不変量である.ここでは電磁テンソル.
- pp.71-72: 速度を方向にとってローレンツ変換すれば,EとHが平行になるような系を常に見出せる.(ただしかつである場合を除く)
- pp.92-93: 上2つの変換によって応力テンソルは対角形になる.x軸を場の方向にとれば
- p.93: かつである場合,対角化するとx軸をE方向に,y軸をH方向にとるとのみが非ゼロ.
*2:固有ベクトルは適当にスケーリングしてもよいので,暗黙の内に正規化されているとみなし,次元も無次元とする.
*3:Wikipediaにはのみの場合,固有値・固有ベクトルは
とか書いてあるが,この固有ベクトルの書き方はいただけない.要は方向が1つ,それに直角な方向が2つ(縮退)と言いたいだけなのに,余計な情報がくっついている.
*6:ランダウリフシッツp.306には固有値のうち一組は0になるとか書いてあるが,どう関係するのか?
*7:たとえば,をに依存する未知係数として,
*8:はただのスカラー定数ではなく,必ずレビチビタとセットで現れ,擬量の空間と非擬量の空間を渡るためのものなのだと思う.
*9:本来だから係数2の帳尻を合わせなければならないが,省略.