wetchのブログ

他人に見られることを想定していない書き散らかし独習ノート.物理学とかVBAとか.

終末沈降速度

今回はWikipediaのこの記事の勉強。
終端速度 - Wikipedia

一応書いとくと、

  • 終端速度uは、次の重力と抗力の釣り合い式の解。

  \displaystyle c_\mathrm{D}S\frac{\rho_\mathrm{f}u^{2}}{2} = (\rho_\mathrm{s}-\rho_\mathrm{f})Vg

  \displaystyle c_\mathrm{D} = 24/Re\quad  (Re<2),\quad 10/\sqrt{Re}\quad (2 < Re<500),\quad 0.44\quad (500< Re<10^5)

  • ここで、\rho_\mathrm{s}は固体の密度、\rho_\mathrm{f}は流体の密度、dを固体(球形)の直径としてV=(\pi/6)d^3は体積、S=(\pi/4)d^2は投影面積、uは速度、gは重力。レイノルズ数Re=du/\nu_\mathrm{f}\nu_\mathrm{f}は流体動粘度。

で、とりあえず鉄と水の物性を代入して、終末速度uを粒径dの関数としてグラフにしてみた。

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水中の鉄粉の終端速度

まあこれでもいいのだけど、やっぱり物理の式は無次元化しないとね。ってことで無次元表記を考えてみる。
まず無次元数には何を選ぶのがいいだろうか。式の場合分けにレイノルズ数が出てくるからこれを使うべきだろうか。この分野でよく出てくるのはストークス数だから、こっちも使うべきだろうか。
待て待て、そもそも無次元数はいくつ必要なんだ? π定理とかいうのを使ってそこから考えてみよう。
次元解析 - Wikipedia

出てくる量は\rho_\mathrm{f}, \rho_\mathrm{s}, d, u, g, \nu_\mathrm{f}の6つだ。それに対して次元は質量・長さ・時間の3つ。ってことは無次元数はその差の3つ必要ということになる。
参考に次元行列ってのを書いてみる。記号や次元名も並べて書いてしまうと、
\displaystyle \begin{pmatrix}
. & \rho_\mathrm{f} & \rho_\mathrm{s} & d & u & g & \nu_\mathrm{f} \\
\text{Mass} & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
\text{Length} & -3 & -3 & 1 & 1 & 1 & 2 \\
\text{Time} & 0 & 0 & 0 & -1 & -2 & -1
\end{pmatrix}

  • 1つ目は密度比\rho_\mathrm{s} / \rho_\mathrm{f}だ。結果を先取りして(\rho_\mathrm{s}-\rho_\mathrm{f}) / \rho_\mathrm{f}としてもいいが、まあどっちでもいいか。
  • 2つ目はグラフの縦軸であるuの無次元化を考えよう。レイノルズ数かストークス数だけど、ストークス数は代表長さとかが入ってくるから使いにくいんだよな・・・。よし、レイノルズ数にしよう。
  • 3つ目はグラフの横軸のdを無次元化しよう。残りのgとか\nu_\mathrm{f}との組み合わせで考えると、d^3g/\nu^2が無次元になるな。これはつまり重力と粘性の比な訳だが、何か名前は付いているかと調べたところ、ガリレイ数と言うらしい。Ga\equiv d^3g/\nu^2としよう。

最初の力の釣り合い式を変形して、VやらSdで書き直して、
 \displaystyle c_\mathrm{D}\,u^{2} = 2\frac{\rho_\mathrm{s}-\rho_\mathrm{f}}{\rho_\mathrm{f}} \frac{V}{S} g = \frac{4}{3}\frac{\rho_\mathrm{s}-\rho_\mathrm{f}}{\rho_\mathrm{f}} dg
さらに無次元数で書き換えるので
 \displaystyle d=\left(\frac{Ga\,\nu_\mathrm{f}^2}{g}\right)^{1/3}, \quad
\displaystyle u=\frac{Re\,\nu_\mathrm{f}}{d_\mathrm{f}} = Re\left(\frac{g\,\nu_\mathrm{f}}{Ga}\right)^\frac{1}{3}
を代入して整理すると、
 \displaystyle c_\mathrm{D}\,Re^2 = \frac{4}{3}\frac{\rho_\mathrm{s}-\rho_\mathrm{f}}{\rho_\mathrm{f}}Ga.
ここで右辺に改めて名前を付けておこう。先行研究があるか知らんけど不遜にもwetch数と名付けてしまおう。
 \displaystyle Wt \equiv\frac{4}{3}\frac{\rho_\mathrm{s}-\rho_\mathrm{f}}{\rho_\mathrm{f}}Ga
= \frac{4}{3}\frac{\rho_\mathrm{s}-\rho_\mathrm{f}}{\rho_\mathrm{f}}\frac{d^3\,g}{\nu_\mathrm{f}^2}
じゃあc_\mathrm{D}もばらしていこう。左辺と右辺を入れ替えて書いて、
 Wt=c_\mathrm{D}\,Re^2=\begin{cases}
\frac{24}{Re}\cdot Re^2\quad&(Re<2)\\\frac{10}{\sqrt{Re}}\cdot Re^2\quad&(2 < Re<500)\\0.44\cdot Re^2\quad & (500< Re<10^5)
\end{cases}
したがって、
 \displaystyle Re=\begin{cases}
\frac{1}{24}Wt \quad&(Re<2) \\
\left(\frac{1}{10}Wt\right)^{2/3} \quad&(2 < Re < 500) \\
\left(\frac{1}{0.44}Wt\right)^{1/2} \quad&(500 < Re < 10^5)
\end{cases}
適用範囲がアウトプットであるReで書かれていると面倒なので、Wtで書き直す。
 \displaystyle Re=\begin{cases}
        \frac{1}{24}Wt                         \quad &(Wt<48)\\ 
\left(\frac{1}{10}Wt\right)^{2/3}    \quad &(10\times2^{3/2}=28.3 < Wt < 10\times500^{3/2}=1.12\times10^5)\\ 
\left(\frac{1}{0.44}Wt\right)^{1/2} \quad &(0.44\times500^2=1.1\times10^5 < Wt < 0.44\times10^{10})\end{cases}

できた。最後にグラフにする。

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終端速度(無次元形式)
なかなか簡潔、かつ統一感のある表記ができて満足。
しかしストークス域とアレン域がつながっていないのが気になる。どうせ中間遷移域だからあやふやでもいいのかもしれないが、Re=5~6くらいまでは外挿させてほしいところ。

あとストークス域とか、ストークス数と関係が深いように見えて、実はそれを使わないほうがいいというトラップ。

追記:沈降速度でググってみたらアレンの他にもいろいろあるのな。調べてみよう。
追記2:調べたのをWikipediaに書きました。