マクスウェル方程式の学習者あるあるなんだけど,単位系がいろいろあるのでつまづいた.これをきちんと次元解析してみた.
基礎方程式
電磁気量の単位系 - Wikipedia によると,いろいろな単位系を包括する形でマクスウェル方程式を書くと次のようになるとのこと.
まずは変数の数を数えよう.以下のことを考慮する.
- 3次元空間のは区別しない.
- については実際のところ1かのどちらかでありいずれにせよ無次元なので次元解析では無視.
すると変数はの12個.
一方次元については3種類だったり4種類だったりと一定しない.また,が単位系によって無次元だったり有次元だったりと変化するのも面倒くさい.
5元系
次元についてとりあえず多めに考えることにして,は独立な]の次元を持つということにする.よってSI単位であるに加えて5次元の単位系となる.で,12個の各変数の次元は,基本的にSI単位系を踏襲しつつ,]の次元についてはマクスウェル方程式をきちんと満たすようにする.実はこれだけでは一意に決まらないのでできるだけ簡単になるように調整して,
とする.次元行列で書くと,
となる.非常に構造が見づらいのでこの後で少しづつ整理していこう.
後ではこれらの変数のうちを無次元化するのでその準備をしておく.次元が5つなので,系の代表スケールを表す定数量を5つ選んでおこう.に加えて,代表長さを選ぶ.5つ目にはかを入れたいところだが,こうすると5定数が独立でなくなるので不可だった.なので外部からの駆動力に当たるを選ぶ.といってもは時空座標の関数なので,あくまで代表スケールを表す一つの定数を選ぶ.
選び出したの5定数の各列がのように規格化されるように,次元行列(1)を変形していくと,
となる.の次元が一致はしないものの,の組み合わせが少し対称性を持って見えるようになっている.
4元系
SI (MKSA) 単位系
次元行列(1)を使って,]だけ無次元化するとSI単位系になる.]の次元だけ独立した行にしていたので計算はすこぶる簡単で,単に]の次元を持つ量をで割ればいい.次元]の行と量の列がすべて0になるので書くのを省略すれば,結果は
となる.結局,5元系において
と変数変換することでを消去し,マクスウェル方程式を
としたのがSI単位系ということになる.まあこれは元のマクスウェル方程式を見てもすぐわかるのだけど.
次元行列(2)から出発すると,
という結論が得られ,マクスウェル方程式は勿論同じになる.
γが速度cの次元を持つ場合
Wikipediaでいうところでは,対称とは電気的な量と磁気的な量の次元が一致すること()であり,が速度の次元をもつときに対称となるらしい.それを確かめる.5元系の次元行列(1)について,の次元をと同じとし,他にの次元を持っていたの次元を整合するように書き換えてみると,
となって,確かにとの次元が一致せざるを得ない.から始めてもとなり,これら2つは同値になる.
これらのことと,との次元が逆数の関係になるのが同値だということもついでに記しておく.
対称な4元系
Wikipediaの単位系の分類表を見てると対称な4元系が存在しない.これは単に書いていないわけではなく,不可能ということのようだ.上記から,とするとに加えてが無次元数になってしまい,5元系から2つの量を無次元化すると3元系になってしまうから,ということが理由だろう.
3元系
CGS-emu単位系
この単位系はの2つの量が無次元化されている.次元行列(2)から出発しての各行がすべて0になるように基本変形し,すべて0となった行と列を省略すると,
となる.結局,5元系において
と変数変換することでを消去し,マクスウェル方程式を
としたのがCGS-emu単位系ということになる.
2元系
Wikipediaには書いてないけど,無次元化をさらに進めてもいい(というかここで止めるのは逆に中途半端だろう).3種類の3元系を同時に成り立たせる,つまりの3つの量を無次元化した2元系を考えてみよう.であるため,あるいはとなるために対称な単位系だ.次元行列を同様に変形すると,
となるから,5元系において
と変数変換することでを消去する.ここでとは無次元であることを表し,副作用的にの次元も消えた.するとマクスウェル方程式は
と細かい係数が一切なくなった形になる.
相対論のテキストでどういう単位系か明記のないまま「としました」とだけ書いてあるような本は,たぶんこの2元系を想定しているのかなあ.この後2元系から1元,0元へと進めるけど,マクスウェル方程式は見た目ほとんど変わらない.
1元系
(これは2元系や0元系と比べて面白みがないので省略してもよかったんだが.)
2元系からさらにもで無次元化してみる(は変数,はその代表長さを表す定数なのを思い出して).これももちろん対称.結果を書くと,5元系からの変数変換は
となる.マクスウェル方程式は(無次元化された位置座標)に関する偏微分にプライムがついて
となる.
0元系
さて最後,以上の単位系は有次元の変数が残っている単位系なのだけど,そもそもバッキンガムのπ定理からすれば11変数-5次元=6つの無次元量でこの現象は記述できるはずだ.「別に、アレを無次元化してしまっても構わんのだろう?」という気持ちもあるので,最後まで行ってみよう.
1元系まで進んできたので後はで規格化すればよいだけ.
という変数変換により次元行列はすべて0になり,最初に言ったとおり6つの無次元量で記述できる.これら変換後の量をもとのマクスウェル方程式に代入して整理すると,
が得られる.1元系との違いはの部分だけ.