wetchのブログ

他人に見られることを想定していない書き散らかし独習ノート.物理学とかVBAとか.

液膜流れのドライアウト現象の次元解析

物理量

  • 流体の物性値
    • \rho\sim\mathrm{kg/m^3}:密度
    • \sigma\sim\mathrm{kg/s^2}:表面張力
    • \nu\sim\mathrm{m^2/s}:動粘度
  • 液膜を流す条件
    • \Gamma\sim\mathrm{m^2/s}:単位幅あたりの体積流量
    • U\sim\mathrm{m/s}:液膜の平均速度
    • \delta\sim\mathrm{m}:液膜の平均厚さ
  • g\sim\mathrm{m/s^2}:重力加速度
  • \theta_A接触

やりたいこと

以上の物理量に依存する現象を解析したい.具体的な系の説明をしなくても何か言えるか.

MKSの3元系による次元解析

次元行列を書いてみよう.次元解析 - Wikipediaで使われているやり方*1を参考に書くと,
 \begin{pmatrix} \cdot & \rho & \sigma & \nu & \Gamma & U & \delta & g & \theta_A \\ \mathrm{kg} & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0\\ \mathrm{m} & -3 & 0 & 2 & 2 & 1 & 1 & 1 & 0\\ \mathrm{s} & 0 & -2 & -1 & -1 & -1 & 0 & -2 & 0\end{pmatrix}
物理量が8個,次元が3個なので5個の無次元数があるだろうと予想される.

  1. 接触\theta_A
  2. 体積流量\Gammaと液膜の速度U,膜厚\deltaには\Gamma=U\deltaの関係があるので,無次元量を\Pi_1:=\Gamma/U\deltaとすると,自明に\Pi_1=1
  3. \Pi_2:=3\nu\Gamma/g\delta^3とする.液膜が層流と仮定するとヌセルトの理論より\delta^3=3\nu\Gamma/gの関係があるので\Pi_2=1
  4. ウェーバーWe:=\rho U^2\delta/\sigmaとする.
  5. 物性値などのあまり変わらないパラメータをまとめたMo:=g \nu^4  \rho^3/\sigma^3とする.Morton number - Wikipediaという名前がついているようだ.

\Pi_1は定数なので無視して,一般の場合には何らかの関数fによって f(We, Mo, \Pi_2, \theta_A)=0という関係式が,液膜が層流という仮定の下では\Pi_2も定数になるのでf(We, Mo, \theta_A)=0という関係式が成り立つと予想できる.

FMKSの4元系による次元解析

力の次元を独立と捉える.重力,粘性,表面張力が力の次元を含んでいると考え, g\sim\mathrm{N/kg},\ \nu\sim\mathrm{N s m/kg},\ \sigma\sim\mathrm{N/m}とする.また,力のNとkg, m, s の間の換算係数k_F\sim\mathrm{kg\ m/N\ s^2}を導入して次元行列を書くと,
 \begin{pmatrix} \cdot & \rho & \sigma & \nu & \Gamma & U & \delta & g & \theta_A & k_F \\ \mathrm{N} & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & -1 \\ \mathrm{kg} & 1 & 0 & -1 & 0 & 0 & 0 & -1 & 0 & 1 \\ \mathrm{m} & -3 & -1 & 1 & 2 & 1 & 1 & 0 & 0 & 1 \\ \mathrm{s} & 0 & 0 & 1 & -1 & -1 & 0 & 0 & 0 & -2 \end{pmatrix}
物理量が9個,次元が4個なので5個の無次元数があるだろうと予想される.

  1. \theta_A
  2. \Pi_1:=\Gamma/U\delta=1
  3. \Pi_2:=3\nu\Gamma/g\delta^3.層流のとき\Pi_2=1
  4. 追加したk_Fを無次元化するもので,たとえば\Pi_3:=k_F\ g\Gamma/U^3.しかし本来必要ないk_Fが現象に影響している訳はないので,この\Pi_3は最終的に現れないはず.よって無視できる.
  5. 段階を踏んで考える.
    • ウェーバーWeは無次元にならず,We/k_F=\rho U^2\delta/k_F\sigmaが無次元になる.
    • モートンMoも無次元にするためには,k_F^2 Mo=k_F^2 g \nu^4  \rho^3/\sigma^3としなければならない.
    • k_F\Pi_3で考慮しているので5つ目には入れたくない.これら2つの無次元数からk_Fを消すには,\Pi_4:=We^2Mo=\rho^5\nu^4U^4\delta^2g/\sigma^5であればよい.

\Pi_1は定数.液膜が層流という仮定の下では\Pi_2も定数.\Pi_3は上述の理由により無視.
よって,f(\Pi_4, \theta_A)=f(We^2Mo, \theta_A)=0という関係式が成り立つと予想できる.3元系よりも情報量の多い結果が得られた.

検証

参考文献1には
 \displaystyle 1.2We-(1-\cos\theta_A)+6.94Mo^{1/5}We^{2/5}\left[\frac{\theta_A-\sin\theta_A\cos\theta_A}{(1-\cos\theta_A)^2}\right]=0
という判定式(式(11))が書いてある.
惜しいのだけどf(We^2Mo, \theta_A)=0という形になっておらず,4元系による考察が当てはまらない.
なんか間違えたか?

*1:まるで他人の責任にしているようだが,実はこのWikipediaのやり方は自分が勝手に作った.