wetchのブログ

他人に見られることを想定していない書き散らかし独習ノート.物理学とかVBAとか.

物理量の集合の数学的性質って?

動機

物理量って演算するときの制限が特殊なので,数学的にはどうなっているのか整理してみた.
基本的には当たり前のことしか書いていないし,いつものごとく結論は出ないので注意.

整理

物理量全体の空間を\mathbb{P}とすると,これは数値(実数)部分と次元部分の直積で表される.
つまり\mathbb{D}を次元部分を表す空間(次元空間と呼ぼう)として
 \mathbb{P}=\mathbb{R}\times\mathbb{D}
数値部分を取り出す記号を\{\cdot\}:\mathbb{P}\rightarrow\mathbb{R},次元部分を取り出す記号を[\cdot]:\mathbb{P}\rightarrow\mathbb{D}とすれば,物理量\forall Q\in\mathbb{P}
 Q=\{Q\}[Q]
と書かれる.
\{Q\}は普通の実数なので,以降は次元部分[Q]について考えていこう.

積について

次元空間\mathbb{D}には積の演算が定義されており,可換群である.
つまり,\forall[Q_1],[Q_2]\in\mathbb{D}に対して

  • [Q_3]:=[Q_1][Q_2]=[Q_2][Q_1]\in\mathbb{D}が存在する.
  • 無次元[e]と呼ばれる単位元が存在する.[e][Q_1]=[Q_1][e]=[Q_1]
  • 逆元[Q_1]^{-1}が存在する.

\mathbb{D}は有限群ではない.また,どんな[Q]\in\mathbb{D},k\in\mathbb{Z}\setminus\{0\}でも,[Q]\neq[e]なら[Q]^k\neq[e]*1

また,\forall[Q]\in\mathbb{D},\forall k\in\mathbb{Z}\setminus\{0\}に対して[q]^k=[Q]となる[q]\in\mathbb{D}が存在する.これを[q]=[Q]^{1/k}と書く.つまり次元は有理数乗が可能.

この\mathbb{D}の積を用いて,\mathbb{P}の積が定義される:2つの物理量Q_1,Q_2\in\mathbb{P}の積は
 Q_1Q_2:=(\{Q_1\}\{Q_2\})([Q_1][Q_2])
である.\mathbb{P}も可換群となる.

ベクトル空間化

積の性質より,次元空間\mathbb{D}に特別な次元[\hat{Q}_1],\dots,[\hat{Q}_n] *2 を用意して,\forall[Q]\in\mathbb{D}
 [Q]=[\hat{Q}_1]^{k_1}\cdots[\hat{Q}_n]^{k_n},\quad k_1,\dots,k_n\in\mathbb{Q}
と書ければ.[\hat{Q}_1],\dots,[\hat{Q}_n]を基底として[Q]\mapsto(k_1,\dots,k_n)\in\mathbb{Q}^nというベクトルへの対応が可能となる.*3 *4

基底の中に無次元[e]を追加して物理量空間\mathbb{P}からベクトルへの対応を考えてもいい気もするが,\mathbb{R}\times\mathbb{Q}^nというちょっと不自然な空間になるためか?実際にはあまり用いられない.

和について

2つの物理量Q_1,Q_2\in\mathbb{P}の和は,次元部分が等しいときのみ可能で,
 \displaystyle Q_1+Q_2:=\begin{cases}(\{Q_1\}+\{Q_2\})[Q_1] & \text{if}\ [Q_1]=[Q_2], \\ \text{undefined} & \text{if}\ [Q_1]\neq[Q_2].\end{cases}
と定義される.*5
この曲者の条件のために,物理量空間\mathbb{P}は環とかベクトル空間とか,既存の有名な空間にはならない.

感想

以上の構造を持つような数学的対象って何かあるのだろうか?
個別の次元[Q]についてユークリッド空間\mathbb{R}がくっついていて,それが無数にある・・・バンドル?とかいうのになるのだろうか.

追記

https://arxiv.org/pdf/1305.1291.pdf
もしかしてこれが正解なんじゃないか?と思ったけど,物理量全体のアンサンブル\Omegaの性質にはさらっとしか触れてないみたいなんだよな...

*1:この辺,代数の不勉強のためうまい言い方が分からない.

*2:ご存じSIでは7つの基本量が用いられるがこれは人為的なものであり,いくつでもいい.

*3:物理量Q有理数の集合\mathbb{Q}を混同しないように.

*4:この考え方を進めると,バッキンガムのΠ定理に出てくる次元行列という考え方につながる.

*5:もしかしたらundefinedなのではなく,意味づけを考えにくい「何か」である可能性はないかなとか考えている.