wetchのブログ

他人に見られることを想定していない書き散らかし独習ノート.物理学とかVBAとか.

擬テンソル

軸性ベクトルとか,擬テンソルとかって難しいよね・・・

所感

混乱の原因のひとつには,符号を決める要因が4種類あること:

  • 受動変換か能動変換か
  • 対象であるテンソルのそのものの変化を考えてるのか,そのテンソルの成分の変化を考えてるのか
  • テンソルの階数kの偶奇性はどっちか
  • テンソルの擬性はp=0,1のどっちか

このせいで整理の仕方に工夫がいる.幸い3つ目,4つ目はパラメータk,pで表せて数式になるから何とか表形式にまとめられているけど.

もうひとつは座標軸を反転させる「受動変換」と対象であるテンソル反転させる「能動変換」が他の文献ではごっちゃになっていることがあると思う.だけど実はテンソルの成分だけを見る限りは両者に違いはなく,また能動変換だけを考えるならば成分と対象には同じように符号が付く.したがって最初は「受動変換のときの成分」を考えていたはずが,図を書くときは「能動変換のときの対象」でイメージしてしまったりする(それでも符号の付き方が同じだから).でもそれは本当は違ってて,「受動変換のときの対象」だけは符号の付き方が違うんだよと言われたら混乱するよね.

前提,用語,記号

  • 空間の次元は3次元とする.
  • 通常(の量):擬ではない量のこと.
  • kテンソルの階数
  • 擬性p\in\{0,1\}:通常の量なら0,擬量なら1をとるパラメータ
  • dx_i:基底
  • 以下は電磁場の記号を流用して記号を割り当てる:
    • \boldsymbol{E}:通常のベクトル(極性ベクトル).つまりk=1,p=0.
    • \boldsymbol{H}:擬ベクトル(軸性ベクトル).k=1,p=1.
    • \boldsymbol{B}:通常の2階テンソルk=2,p=0.
    • \boldsymbol{D}:擬 2階テンソルk=2,p=1.
  • 反転とは,座標系を右手系から左手系に変えること.一般のn次元の場合は基底の順序を奇置換の並びに変えること.以下の2種類がある:
    • 受動変換:基底をdx_iから-dx_iに変えること.
    • 能動変換:通常のテンソルの場合は対象に(-1)^kをかけること.この理由は,kテンソルk個のベクトルを作用させて得られるスカラーは変換によって不変だから.
    • ただし擬テンソルの場合は,反転に際して対象にもマイナスが付く.これは体積要素の符号が変わるから(か?)

結論を先にまとめる

それぞれの変換をしたときの対象,成分への符号の付き方は下表.「新版マクスウェル方程式」のp.228を丸パクリ.

対象 成分
受動変換 (-1)^p (-1)^{k+p}
能動変換 (-1)^{k+p} (-1)^{k+p}

個別にみていく

ここではとりあえず代数的に整理を試みたが,イラストで直観的に示したのにスハウテン図というのがある.

ベクトル

通常のベクトルE

変換前の \boldsymbol{E}=E^idx_i に対して,

  • 受動変換:左辺の対象は\boldsymbol{E}のまま,右辺の基底を-dx_iに変える.
    \boldsymbol{E}=(-E^i)(-dx_i) より,成分にはマイナスが付く.
  • 能動変換:左辺の対象が-\boldsymbol{E}と変わり,基底はdx_iのまま.
    (-\boldsymbol{E})=(-E^i)(dx_i)より,成分にもマイナスが付く.
擬ベクトルH

変換前の \boldsymbol{H}=H^idx_iに対して,

  • 受動変換:対象が-\boldsymbol{H}と変わり,基底を-dx_iに変える.
    (-\boldsymbol{H})=H^i(-dx_i)より,成分は変化しない.
  • 能動変換:対象は-(-1)^1\boldsymbol{H}で変化せず,基底もdx_iのまま.
    当然成分もそのまま.

2階テンソル

通常の2階テンソルB

変換前の\boldsymbol{B}=B^{ij}dx_i\wedge dx_jに対して,

  • 受動変換:左辺の対象は\boldsymbol{B}のまま,基底を-dx_iに変える.
    \boldsymbol{B}=B^{ij}(-dx_i)\wedge(-dx_j) より,成分は変化しない.
  • 能動変換:左辺の対象は(-1)^2\boldsymbol{B}すなわちそのままであり,基底もdx_iのまま.
    当然成分も変化しない.
擬 2階テンソルD

変換前の\boldsymbol{D}=D^{ij}dx_i\wedge dx_jに対して,

  • 受動変換:対象が-\boldsymbol{D}と変わり,基底も-dx_iに変える.
    (-\boldsymbol{D})=(-D^{ij}(-dx_i)\wedge(-dx_i)より,成分もマイナスが付く.
  • 能動変換:対象が-(-1)^2\boldsymbol{D}=-\boldsymbol{D}と変わり,基底はdx_iのまま.
    (-\boldsymbol{D})=(-D^{ij}dx_i\wedge dx_jより,成分もマイナスが付く.

覚え方

  1. まずは「p=0」のテンソルを「能動」変換した時の「成分」が,k階のときに「(-1)^k」がつくということを覚える.これは図でも書けば直観的に理解できると思う.
  2. p=0の他のパターンをイメージしていく.まだある程度直観的に理解できる範疇.
    受動,成分の場合は(-1)^kのまま.
    能動,対象の場合も(-1)^kのまま.
    受動対象の場合,kにかかわらず符号は変化しない.
  3. \underline{p=1}の場合は,(3-k)階の通常のテンソルと比較して考える(3は空間が3次元だから).
    能動,成分の場合
    受動,成分の場合
    能動,対象の場合
    以上の3つともp=0(3-k)テンソル(-1)^{3-k}=(-1)^{k+1}がつくので,\underline{p=1}の場合も同じように(-1)^{k+1}がつく.
  4. 最後に\underline{p=1}受動対象の場合kにかかわらず-1がつく.これが一番,非直観的でわかりにくいと思う.